ロバート パーカー5ッ星評価の地位を捨て、自然に従うワイン造りの道を歩む
「完璧ではないからこそ美しい」ありのままのワイン
国 | ドイツ |
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地域 | ファルツ |
歴史 | 1520年より 13世代続く生産者 |
オーナー | ライナー カール リンゲンフェルダー : 1951年生。 シシェル ゼーネのチーフエノロジストを務め、オーストラリア、ニュージーランドの有名ワイナリー、グラン ピュイ ラコスト、デュクリュ ボーカイユで働いた経験もあり、そこで樽熟成に触れた。カリフォルニアのシミ等で、白のマロラクティック発酵について学んだ。 |
葡萄園 | 15ha(自家畑・グロスカールバッハ周辺)+15ha(買い葡萄) 37%リースリング、18%シュペートブルグンダー、13%ドルンフェルダー、10%ショイレーベ、 その他
<映像> ドリルを使ったレス(黄土)土壌の確認。ドリルの刃先に土が入り、パウダー状の土が土壌深くまで詰まっていることが分かる。2017年ワイナリー訪問時。 |
栽培 | ボルドー液(殺菌剤)、防虫剤、除草剤は使用せず、フェロモンを使用。 樹と樹の間を1列ごとに掘り返している。 |
<情報リンク>
ドイツのトップ生産者としての地位を確立
リンゲンフェルダーは、ファルツ地方のグロースカールバッハの地で、1520年からワイン造りを行なってきました。現在のオーナーは、1951年生まれのライナー カール リンゲンフェルダーです。13代目にあたるライナーは、かつて、ロバート パーカーの著書「パーカーズ ワイン バイヤーズ ガイド第4版」で、エゴン ミュラー、フリッツ ハーク、ヨハン ヨゼフ プリュムなどの著名生産者とともに、5ッ星(OUTSTANDING)の評価を獲得しました。『ワイン アドヴォケイト1994.2.26』では、「フラインシュハイマー ゴルトベルク ショイレーベ アウスレーゼ 1992」が99点を獲得。『ワイン アドヴォケイト』に掲載されている、1992VTのすべてのアウスレーゼの中でもトップスコアです(次点は96点)。また、同誌に99点の評価が掲載された1992VTのワインはわずか8本しかなく、この点数は、ルフレーヴのモンラッシェ グラン クリュや、スクリーミングイーグルと並ぶほどの凄まじいものでした。
「私はワインメーカーでも、芸術家でも職人でもない。ただ自然に従い、自然をボトルに詰めている」
これだけの評価を得ていながら、ライナーはトップ生産者しての地位に固執せず、自らが理想とするワインを造るための道を歩んできました。具体的には、ロバート パーカーが絶賛したような極甘口タイプのワインの生産を止め、より日常的に飲むワインを手掛けています。これにより、評価誌への掲載は少なくなりましたが、決してワインの品質が落ちたという意味ではありません。むしろ、「‟良いワイン”以上のワインを造りたい。‟本物のワイン”を造りたい」と意気込み、畑に由来する天然酵母による偶発的な発酵を大切にしながらすべてのワインを生産しています。自然環境や畑の天然酵母を守るため、ボルドー液や防虫剤、除草剤を使用しません。2016VTではべと病がまん延し多くの生産者が対策を施しましたが、ライナーは農薬を使用せず、結果としてなんと80%もの収穫を失ってしまいました。また、同じワインであっても、あるタンクでは辛口、あるタンクでは発酵が途中で止まってしまったために甘口になることがあります。しかしライナーは、それ以上酵母を添加したり、介入したりしません。「発酵が自然に止まったその状態こそ、そのワインにとってあるべき姿だ」。ライナーの哲学が垣間見える言葉です。
「完璧ではないからこそ美しい。私のワインも同じようなものだ」
ライナーは、「ある本で読んだのだが」と前置きし、日本の‟わびさび(侘び寂び)”に感銘を受けたと話してくれました。「2015VTに、全く同じ葡萄で造ったロゼワインがある。しかし、1本は辛口で、もう1本は甘口だ。なぜなら、2つのタンクの内の1つが、辛口になる前に酵母が活動を終えたために甘口になってしまったからだ。こうしてできたロゼワインは完璧なワインではないかもしれないが、それぞれに個性があって良い。ここには日本の‟わびさび”の文化に通じるものがあると思う。たとえば、そこに完璧な日本庭園があったとする。その庭園に桜の花が舞うと、庭園の完璧さを乱してしまうかもしれない。しかし、完璧ではないからこそ美しい」。
「これは以前、稲葉が訪問してくれた時にプレゼントしてくれた漆塗りのお盆だ。表面がざらざらしていて、お盆としては完璧ではない。しかし、この表面の起伏があるからこそ、いろんな角度から見ていて美しさを感じる。この漆器からも‟わびさび”を感じた。私のワインも同じようなものだ」。天然酵母による偶発的な発酵を経て、辛口になるか甘口になるかも分からないような自然の産物として出来上がったありのままのワイン。不完全かもしれないものの、だからこそ美しいのだというライナーの哲学が良く分かるエピソードです。
植物や動物が共存できる環境での葡萄栽培を重視する
「グロースカールバッハは雨が少ないエリアだ。灌漑をする生産者もいるが、私はしていない。灌漑をすると葡萄樹の成分バランスが崩れ、この畑のテロワールの表現が損なわれると考えているからだ。さらに、ヴィンテージの差がなくなり、自然の味ではなくなってしまう。畑には意図的に植物の種を撒いて草や花を生やしている。花は虫や鳥を呼び寄せ、鳥や良い虫は悪い虫を食べてくれるんだ。バラは、かわいいから植えているということもあるけれど、それだけではない。うどん粉病を葡萄より先に感知するという特徴があるんだ。うどん粉病は感染してからでは手の施しようがないから、バラを見ることでうどん粉病の発生を知ることが重要だ」。
「葡萄栽培とワイン造りへの情熱を伝えたい」
2017年に訪問した際、葡萄畑に到着すると、ライナーがおもむろに車の荷台からドリルを持ち出してきました。「いったいなぜ?」とあっけにとられる弊社スタッフ一同。すると、ライナーはいきなり畑にドリルを回転させて突き刺し、引き抜いて地中の状態を見せてくれました。私たちにしっかりと説明したいという真面目さと、驚きの行動とが、カールの人柄と葡萄栽培、ワイン造りへの情熱を表していると感じられました。このエリアの土壌は主にレス(黄土)で、岩石が風化したさらさらとした砂で、豊富なミネラル分を含んでいます。シュペートブルグンダーの畑は、石灰質粘土の土壌となっています。
同じメーカーのタンクで醸造しても、違うワインが出来る
「同じメーカーのタンクで醸造するが、タンクによってワインの成長が異なる。たとえば、辛口を造ろうとしても、発酵が途中で止まり甘口になる場合がある。この場合、酵母を添加して最後まで発酵させる生産者が多いだろうが、私はそのような介入をしない。発酵が自然に止まったその状態こそ、そのワインにとってあるべき姿だ。もしAのタンクが辛口、Bのタンクが甘口、Cのタンクが甘口という味わいになったとする。稲葉がAのタンクのワインをオーダーしたら、他の国のインポーターが辛口を欲しがっても提供することができない。そんな時は『ごめんなさい』とメールをするしかない。ワインの飲み手は多様な価値観を持っており、‟どこにでもあるものではないワイン”を欲しいという人がいる。そうした人々のために、より興味を持ってもらえるものを造りたいんだ」。
ファルツ産の樽を使用することでこの土地の個性を表現する
使用する樽は様々で、120年前から使用しているとても古い大樽や、上級品に使用するバリック、縦に長い形のシュトゥックと呼ばれる樽があり、それぞれ使い分けています。「樽の材料となる木材は全てファルツ産を使用している。他のエリアの材料で造った樽は使わない。ファルツ産の樽を使うことで、ワインによりこのエリアの個性が出るように表現している。‟どこでも手の入るワイン”ではなく、このエリアで受け継がれた固有のものを造っていきたい」。
<本格赤ワインの生産者>2003年 訪問時
ライナー カール リンゲンフェルダーは白ワインだけでなく、本格的な赤ワインを造ることでも知られています。1980年に、デュクリュ ボーカイユ、グラン ピュイ ラコストで修業し、オーク樽熟成に触れ、のちのバリック熟成に影響を受けました。その他に、オーストラリアのペンフォールズやニュージーランドのモンタナといった有名ワイナリーで働き、ブルーナンのキュヴェで有名なシシェル ゼーネのチーフエノロジストを務めた経験もあります。修行の成果もあってか、ロバート パーカー Jr.の「バイヤーズガイド6版」では、全ドイツで14軒しかなかった5ッ星生産者として紹介されました。
‘03年に訪問した際、‘98年のオニキスや‘99年のガニメットを試しましたが、やっと開き始めていて、バランスのとれた味わいになっていました。これらの上位キュヴェは良い年にしか造らず、良いワインができそうだと判断してから、新樽を購入しています。また、リンゲンフェルダーはノンファイニング(無清澄)でワインを造る場合、長い熟成が必要と考えています。そのため、オニキスやガニメットは敢えて蔵元で熟成させてからリリースしています。