クロスター エーバーバッハのケラーマイスターを務め、その名声を復活させた男。
ハルガルテン村の自らのワイナリーで醸す極上のワイン。
国 | ドイツ |
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地域 | ラインガウ |
歴史 | 1991年 趣味でワイン造りを開始。 1995年 州営ラインガウ醸造所に勤務。かつてのシュタインベルガーの栄光を復活させる。 2002年9月 正式にケラーマイスターとして、全工程を任される。 2004年9月 州営ラインガウ醸造所を辞め、自分のワイン造りに専念。 2005年 VDPへの加入が認められた。 |
オーナー | フレート プリンツ : 1970年生まれ。
フローラン プリンツ : 息子。「息子のフローランがワインナリーを継ぎたいと言ってくれた。畑での作業が好きで、収穫時期にはワイングートに来て手伝ってくれる。小さい時から畑に行きたがる子供だった。」とフレートは話していました。 |
葡萄園 | 9ha ユングファー3.5ha、ヘンデルベルグ3.5ha、シェーンヘル1.5ha、フリューベルク0.5ha 91%リースリング、7%シュペートブルグンダー、2%ソーヴィニヨン ブラン |
栽培 | 畑作業を全て手作業に変えた。コストアップだが、全ては畑で良い葡萄を造るため。 カビネット、シュペートレーゼ、アウスレーゼは、畑の区画によって分けており、いつも狙って畑作業の段階からその等級のワインを造る。古くからユンクファーとして認められていた畑は、シュペートレーゼに用いる。 2009年から糖度計は使用していない。種が、緑色から茶色に熟していることが大事。 2009年からオーガニック農法。’13VTよりユーロリーフ表示(オーガニック)。マーケティングのためではなく、品質向上のため。 農薬は禁止。ウイキョウやオレンジのオイル、ベーキングパウダーを畑にまくことで、木が免疫力をつける。 |
<情報リンク>
フレート プリンツという名の生ける伝説
1970年生まれのフレート プリンツは、1991年に趣味でワイン造りを始めてからわずか数年の間に、ラインガウのワイン造りに重要な変革をもたらした人物として知られるようになりました。1995年、シュタインベルガーで名を馳せたクロスター エーバーバッハ醸造所での勤務を開始すると、かつての名声を失いつつあった、当時のワインのスタイルを変更するよう助言しました。ワインに甘みを残すためにズースレゼルヴ(発酵前のブドウ果汁)を加える手法ではなく、シュタインベルガーが持つ特別な土壌の個性、ミネラル感を最大限に引き出す努力を行ったのです。この功績が認められたフレートは、2002年にケラーマイスター(醸造責任者)に就任したものの、2004年9月に醸造所を退社。その理由は、ハルガルテン村にある自身のワイナリーに専念するためでした。
ハルガルテン村で生み出される極上のワイン
フレートは、その才能を自身のワイナリーでも発揮します。独立して間もない2005年1月には、厳しい認定条件を持つVDP(ドイツ優良ワイン生産者協会)への加入が認められ、同年より、クロスター エーバーバッハのオークションでも彼のワインが競売にかけられるようになりました。ドイツの著名なワインガイドのひとつ、『アイヒェルマン 2019』では4星を獲得し、同年の『ヴィヌム』で3.5星、『ゴーミヨ』で3房を獲得。フレートが造る珠玉のワインは、生産される前に予約で埋まってしまうほどです。しかしフレートは、「私は”ワインメーカー”ではない」と言います。「品質が最高値なのは収穫直前だ。収穫した葡萄に、ワインメーカーが手を加えれば加えるほどワインの品質は落ちる。つまり、畑仕事が何より大切ということだ」。
2009年からオーガニック農法を選択し、2018年には公式にビオディナミを開始。有機栽培は「マーケティングのためではなく、品質向上のため」だと強調します。当初5haだった畑は、現在9haまで拡大しましたが、ワイン造りの哲学は変わっていません。私たちが2004年に彼の元を訪問した時、「ハルガルテンのために良いことをしていきたい。それが嬉しいし、夢だった。だから中途半端なことはしたくない」と熱く語ってくれましたが、その想いは今もなおワインの中に確かめることが出来ます。2017年の「ジェームズ サックリング.com」によるレポートでは、ラインガウの400本近いワインを試飲した中で、唯一100点を献上されたのがプリンツの「ユングファー リースリング アウスレーゼ ゴルトカプセル 2015」でした。また、「ヘンデルベルク シュペートブルグンダー レゼルヴ トロッケン 2012」が97点を獲得。同記事では、「フレート プリンツが、我々のレポートの中で最高評価の甘口ワインと赤ワインを生産したという事実は、ラインガウの最近の発展について多くのことを述べている」と紹介されています。彼が造り出すワインは、かつて勤務した州営ラインガウ醸造所のワインの質を明らかに上回り、多くのドイツワインファンを驚かせることは間違いありません。しかしながら残念なのは、あまりに量が少ないことです。
銘醸畑"ハルガルテナー ヘンデルベルク"
ヘンデルベルクは1418年に文書で言及された歴史を持つ畑です。VDPによる格付けでは、エアステ ラーゲ(1級畑)に認定されており、素晴らしいワインを生み出す銘醸畑として知られています。23haほどに葡萄が植えられており、プリンツはその内の標高200~230m、南から南西向きの斜面に位置する3.5haの区画を所有しています。ラインガウの中でも標高が高く、朝日から夕陽まで、1日中太陽の恩恵を受けることができる場所です。また、丘の上部には粘板岩が多く含まれており、ワインにミネラル感を与えます。畝の間には草を生やしていて、急な勾配で土壌が流されないようにするために工夫されています。フレートは、「気候変動の関係もあり、より栽培地としてシュペートブルグンダーに適してきた」と話しており、今まさに注目すべき畑だと言えます。
シュペートブルグンダーへのこだわり
昔はリースリングしか造りたくないと思っていましたが、今は赤ワインにはまっています。1986、1991、1992年に、シュペートブルグンダーを植樹。2004年に植えた時には、いくつかのブルゴーニュの特別なクローンを選びました。より力強さが出て、色が濃くなります。全体の5%まで畑を増やしましたが、これ以上大きくするつもりはありません。現在ドイツの気候は15年位前のブルゴーニュ並みになっています。収穫は熟し過ぎない内に行うよう心がけています。赤は最低1年熟成させてから飲んでほしいと思っています。
シュペートブルグンダーは、8月に色付きが始まりますが、その時期に色が付いていないものは間引く必要があります。収穫時期にはどれも同じ色をしていて、熟度が異なるものの見分けがつかなくなってしまうからです。ハルガルテナー ヘンデルベルク(KA-420)は、1枝に対し2房に制限しており、熟しを早くするためさらに房の1/3を切ってしまいます。そのため、収穫量は30~40hl/ha程度になり、集約感のある葡萄から、力強いスタイルのワインが生み出されます。一方、スタンダードクラス(KA-516)は、間引きの比率は低いため収穫量は60 hl/haで、スムーズでエレガントな特徴があります。「他のエリアと比べて、ラインガウのシュペートブルグンダーには酸があり、太った感じはなく、ミネラル分がある。したがってアルコールがあっても軽やかになる」とフレートは語ります。
「この地方特有の重さのあるワインは造りたくない」
以前から私たちは、プリンツのワインに上質なモーゼルワインのような酸とミネラルとボリュームを感じていました。2001年に訪問した際に、「モーゼルワインを意識している。特にヴィリ シェーファーのワインが大好きで尊敬している」とプリンツが話すのを聞きました。またケルンの展示会でヴィリ シェーファーから、「モーゼルからワインを買って瓶詰めしたのでは!?」と冗談を言われたとも聞き、シェーファーもプリンツのワインを高く評価していて、非常によいライバル関係にあると知ることが出来ました。
<評価>
『ヴィヌム2022』で4/5星、『ゴーミヨドイツワインガイド2019』で3/5房、『アイヒェルマン2019』で4/5星。「ヴィヌム2022」で「ライジングスター オブ ザ イヤー」を受賞。ヒュー ジョンソン「ポケット ワイン ブック2018」に、★★→★★★で掲載。スチュワート ピゴット「ザ ワイン アトラス オブ ジャーマニー」掲載。
<カリスマ生産者>2003年ワイナリー訪問時
フレート プリンツは、今では自らの名を冠したワイナリーで有名ですが、1995年から2004年まではかの有名な「シュタインベルガー」の畑を所有するヘシッシュ シュターツヴァイングーテー クロスター エーバーバッハ(州立醸造所)の栄光を取り戻した人物としても知られています。プリンツが就任する以前の1980年代から90年代前半までは、シュタインベルガーにリースリング以外の葡萄が植えられるなどの品質低下がみられました。しかし、プリンツはそれまでのラインガウのワインによくみられるような重苦しいスタイルではなく、モーゼルやナーエを意識したスタイルを持ち込むことで、ドイツに5つしかないオルツタイルラーゲであるシュタインベルガーの栄光を取り戻したのです。今ではどのワイングートも行っている、エレガントで畑の個性を引き出すワイン造りをいち早く取り入れていたのがフレート プリンツと言えます。
<有機栽培の証>
この写真は畑に生えているワイルドベリーの写真です。プリンツは有機栽培の認証を受けており、これは環境に配慮するためのものです。
ユングファーの畑
ハルガルテン村を代表する「ユングファー」の畑は、VDPグローセ ラーゲにも認められている銘醸畑です。この畑は中世(12~13世紀)ごろ、エバーバッハ修道院に属していました。修道僧たちは処女である聖女マリアにちなんで、この畑にユングファー(処女)と名付けたといわれています。ユングファーは元々、3haしかなかったのですが、法改正で今では50haまでに拡大。プリンツが所有する畑はオリジナルの部分とそのすぐ近くのものです。オリジナルのユングファーの畑は最上レベルで、シュタインベルガーと類似した珪岩を含む土壌となっています。ワインにフレッシュさがあり飲んでみるとより酸を感じ、残留糖度が高くても甘さが低く感じるといった特徴がワインから感じられます。プリンツはこの3ヘクタールからの葡萄を常に“ゴールド カプセル”に仕上げています。オークションに出展されるのも、この畑のものに限っています。
ヘルデンベルクの畑