【現地視察レポート】ラヴノー、ドーヴィサに次ぐ地位に君臨するシャブリの個人生産者 "ドメーヌ ジャン ポール エ ブノワ ドロワン"(経営企画室 藤野晃治)
ドロワンのセラー。グラン クリュ レ クロを眺める絶好のロケーションにある。
セラーから見るレ クロの様子。
シャブリのトップ生産者
中世ヨーロッパの面影を残すシトリー ル フォール村から、再びレンタカーを走らせてシャブリまで戻ってきました。次の訪問先は、シャブリの中でも最高の生産者のひとつとされる、「ジャン ポール エ ブノワ ドロワン」です。ドロワン家はなんと、1620年からこの地で葡萄栽培をしているという歴史ある一族で、現当主のブノワは14代目にあたります。
例えば1698年、ジャン ドロワンがワインと蒸留酒造り、それから樽の製造を開始しました。クロード ドロワンの時代である1728年から1733年にかけて5年連続で霜が降り、シャブリは極度の悲惨と苦難に見舞われたそうです。1782年7月14日に雹が作物を襲ったという記録もあります。また、1791年にはジャン ボニファス ドロワンが、新たに数区画の畑の所有者となりました。そして1866年5月6日には、エドム オーギュスト ドロワンが、ナポレオン三世がオーセロワを訪問した際にワインを献上し、銀のタストヴァン(ワインの利き酒に使⽤する杯)を授けられたそうです。
ナポレオン三世から授けられた銀のタストヴァン。
このようにドロワン家は、まさにシャブリの歴史とともに生きてきた一族といえます。そして現在、シャブリのグラン クリュ7つのうち、ヴォーデジール、グルヌイユ、ヴァルミュール、レ クロ、ブランショの5つに葡萄畑を所有しており、自家畑の総面積は26ha、年間生産量は18万本にも及ぶ、一大ドメーヌへと成長しました。個人生産者であるのにも関わらずこれだけの見事なポートフォリオを揃えているのは、きっと400年以上にも及ぶ歴史の積み重ねのおかげもあるのでしょう。
ところで、シャブリのトップ2と呼ばれる生産者をご存知でしょうか? おそらく満場一致で、フランソワ ラヴノーとヴァンサン ドーヴィサの名前が挙げられるのではないでしょうか。そして現在、この2軒に加えてトップ4となっているのが、ドロワンとベッサン トランブレイだといわれています。参考までに、フランス現地のワイン専門誌として著名な「ル ギド デ メイユール ヴァン ド フランス(略称:RVF/メイユール)」の評価本(通称:グリーンガイド)での評価の推移と、それぞれのドメーヌについて簡単にまとめてみました。
生産者 | 設立年 | 現当主 参加年 |
現当主 | 畑面積 | 年間生産量 | RVF 2025 | RVF 2024 | RVF 2023 | RVF 2022 |
Raveneau | 1948 | 2000 | Isabelle Raveneau | 10ha | 45,000本 | ★★★★ | ★★★ | ★★★ | ★★★ |
Dauvissat | 1920 | 2013 |
Ghislain Dauvissat Etiennette Dauvissat |
13ha | 80,000本 | ★★★★ | ★★★ | ★★★ | ★★★ |
JP & B Droin | 1620 | 1999 | Benoît Droin | 26ha | 180,000本 | ★★★☆ | ★★★ | ★★★ | ★★★ |
Bessin Tremblay | 1989 | 2015 | Romain Bessin | 12ha | 45,000本 | ★★★☆ | ★★★ | ★★★ | ★★☆ |
こうして比較してみると、ドロワンの歴史の長さと畑面積の広さ、それに伴う生産量の多さがよく分かります。このグリーンガイドでは、2025年版から4星が導入され、ラヴノーとドーヴィサが格上げされました。この評価はいわゆる「殿堂入り」のようなもので、その他の生産者たちは事実上、0星(掲載のみ)から3星までの間で評価されることになりました。その中でも、ドロワンとベッサン トランブレイのみが3星として高く評価されていることが分かります。ここで、ワインの専門家がドロワンについて他にどのような評価をしているのか、コメントを紹介させていただきます。
▶「シャブリの二大巨匠にラヴノー、ドーヴィサを挙げる人が多いが、私は3番目にドロワンを加えたい」
――『ヴィノス 2018.8』ニール マーティン
▶「このドメーヌは、シャブリのトップ集団のひとつである。そのワインは端正で、並外れた表現力を持ち、今日、非常に高いレベルにある。スタイルは常に明確で、ワインは綿密で、常にリッチで芳醇だが、それでいてフレッシュな酸を持っている」
──『ラ ルヴュ デュ ヴァン ド フランス No.619』の記事「ラヴノー、ドーヴィサ、ドロワン:シャブリを代表する造り手たち」
▶「最も影響力があるシャブリの生産者の 1 つ」
──『デカンター』の記事「シャブリ 2022: 完全なヴィンテージレポートとトップスコアのワイン」より、グルヌイユ2022Vのレビュー時に言及
テロワールの表現に挑む
ジャン ポール エ ブノワ ドロワンの現当主、ブノワは1975年生まれ。ヴァンサン ジラルダンのエリック ジェルマンとは、醸造学校でともに勉強した仲でもあります(エリックの方が2つ年上です)。1999年、24歳の時に家族のドメーヌに参加しました。弊社が初めて訪問したのは1995年ですが、当時はブノワの父であるジャン ポールの時代でした。その後、2014年にジャン ポールが完全に引退し、ブノワが14代目として正式にオーナーとなりました。ところでドロワンのスタイルは、実はブノワが参加してから大きく変化しています。
1995年撮影:ブノワの父ジャン ポール。 シャブリのクリマの名前の由来を記した書籍"Par Mots et Par Vaux(言葉と谷によって)"を出版している。
2024年撮影:14代目当主のブノワ ドロワン。シャブリ最高峰のワインを手掛ける。
■ブノワが変更したこと
①樽:使用比率を減らし、樽の香味を抑えるようにした。
②プレス:プヌマティックプレス(空気圧式プレス)を使用し、プレスを優しく行うようにした。
③瓶詰めのタイミング:以前はフィルター直後だったが、フィルター後2ヶ月ほど休ませて行うようにした。
④酵母:以前は野生酵母と選別酵母を使い分けていたが、現在は野生酵母のみで発酵させている。
ブノワは、1999年にドメーヌに参加してからこのようにワイン造りを変化させてきましたが、その理由は「クリュごとのテロワールの違いを、ワインに表現するため」といいます。「たくさんのスタイルを造っているから、ひとつを好きになってもらうわけにはいかないんだ。また、ラヴノーやドーヴィサは本当に素晴らしい造り手で、心から尊敬しているが、彼らのワインは真価を発揮するまでに長い年月を要することが多い。一方で、私のワインは、早いうちからテロワールの違いが現れるから、扱っていて非常に面白いとお客様からはいわれるよ」と話してくれました。
スタンダードクラスのシャブリに圧倒される
ドロワン名物? キュヴェ名無しのステンレスタンク。「今ヴォグロを飲んだから、次はヴァイヨンだ」と颯爽と案内してくれる。
さて、それでは2023VTのタンクサンプルの試飲に移ります。「2023VTは、2018VTと2022VTの間くらいのヴィンテージで、暑すぎることがなかった。収穫前の天気も良く、葡萄は良く熟した。比べると、2022VT の方がもっと酸があり、シャブリらしいヴィンテージといえる。リッチなスタイルが好きなら2023VTの方が良いだろう」とブノワ。とはいっても、そこはトップ生産者。ヴィンテージキャラクターは違うかもしれませんが、クオリティは全く心配ありません。
ドロワンでは、上下二層に分かれたステンレスタンクからそれぞれのキュヴェを試飲していきますが、タンクには何も目印がありません。次はこっちのタンクかな? なんて目星をつけることもできませんので、ブノワの後を言われるがままについていきながら試飲を進めます。まずはスタンダードクラスのシャブリ。飲んだ瞬間、思わずのけぞるような凄まじいまでのエネルギーを感じました。
ヴァンサン ジラルダンでも「ブルゴーニュ ブラン キュヴェ サン ヴァンサン」を飲んだ瞬間に、もはや他のキュヴェの試飲は不要なのではと感じるほどだったのを思い出しました。参考までに、スタンダードクラスのシャブリの「デカンター」誌の評価は、2022VTが92点、2023VTが93点です。そしてなんと、ブノワはこのシャブリを7万本(!)も手掛けていますから本当に驚きです。それぞれのキュヴェの2023VTについて、ブノワのコメントを簡単にご紹介します。
ブノワの説明を受ける視察スタッフ一同。ブノワの説明は簡潔ながら分かりやすく、過不足がなく完成されている。こんなところも超一流!
■プルミエ クリュ
・ヴォグロ:「ふくよかで骨格がある」
・ヴァイヨン:「アロマが豊かで、白い花やフルーツが感じられる。若いがすでに飲みやすい」
・モンマン:「粘土質が多い土壌なので、リッチでパワフルになる。深みがある」
・モン ド ミリュ:「常に白い果実や、アプリコットなどの黄色いフルーツのアロマがある」
・フルショーム:「非常にリッチな味わいがある」
・ヴォーロラン:「フリントの特徴があり、スモーキーなミネラルがある。とてもピュアだが、非常にクラシカルなシャブリになる。ブラインドで飲んだとしても、このワインはシャブリ以外にないと判断できるだろう。日本でこのワインを飲んでもらえば、まるでシャブリにいるかのように思っていただけるはずだ」
・モンテ ド トネール:「ボディがあり、とてもリッチな特徴を持つ上に、緻密な味わいがある」
■グラン クリュ
・ヴォーデジール:「エレガントで繊細な特徴があり、素晴らしい酸が感じられる」
・ヴァルミュール:「グリップがあるワインだ」
・レ クロ オマージュ ア ルイ:「塩っぽいミネラルがある。私がレ クロを好む理由は、骨格がありながらエレガントで、バランスが取れている上に、ミネラルがしっかりと感じられるからだ」
・グルヌイユ:「非常にグルマンなワインで、非常に飲み進みやすい。2022VTよりも甘みが感じられると思う」。
※グラン クリュのレ プルーズ、ブランショは生産されませんでした。
訪問した2024年は雨が多く、実際に訪問日にも雨が降っていた。「今朝も畑仕事をしてきたが、また行かなければならないだろう」とブノワ。
「今年はフランス全土で雨が降っているが、気候変動にはサイクルがある。2~3 年後には安定して欲しいと思っているよ」。
妥協のない、品質重視のワイン造り
「ドメーヌから畑までの距離」は、実はワインの品質にとって重要な項目。すぐに畑に行けるのもドロワンの強み。
シャブリのトップ2、ラヴノーとドーヴィサに追随する偉大な生産者でありながら、400年以上の歴史の中で栽培面積を増やし、十分な量を生産できる個人生産者でもあるドロワン。しかしながら、実は世界中で割り当てとなっており、年に一度、限られた数量しか輸入することができません。1995年の初訪問から30年のお付き合いになりますが、その当時と比較すると、品質にはさらに磨きがかかっています。
色々な生産者の話を聞いていると、彼らが口をそろえて語るのは「最高品質のワインを少量だけ造るのは、実は難しくない。しかし、それを大量に造るというのは本当に難しい」ということ。ドロワンの凄さは、グラン クリュのクオリティや種類だけではなく、このスタンダードクラスからも感じられます。何から試せば良いのか分からないという方は、まずは「シャブリ」からお試しください! その味わいの密度と凝縮した素晴らしい風味、そしてこれぞシャブリと体感できるミネラル感に、きっと驚いていただけるのではないかと思います。
株式会社稲葉 経営企画室 藤野 晃治
■ラインナップ
・シャブリ 【白・辛口】
・シャブリ プルミエ クリュ フルショーム 【白・辛口】
・シャブリ プルミエ クリュ ヴォーロラン 【白・辛口】
・シャブリ プルミエ クリュ モンテ ド トネール 【白・辛口】
・シャブリ プルミエ クリュ モン ド ミリュ 【白・辛口】
・シャブリ プルミエ クリュ ヴァイヨン 【白・辛口】
・シャブリ プルミエ クリュ モンマン 【白・辛口】
・シャブリ プルミエ クリュ ヴォグロ 【白・辛口】
・シャブリ グラン クリュ レ プルーズ 【白・辛口】 ※生産再開時期未定につき欠品中
・シャブリ グラン クリュ ヴォーデジール 【白・辛口】
・シャブリ グラン クリュ グルヌイユ 【白・辛口】
・シャブリ グラン クリュ ヴァルミュール 【白・辛口】
・シャブリ グラン クリュ レ クロ オマージュ ア ルイ 【白・辛口】
・シャブリ グラン クリュ ブランショ 【白・辛口】 ※生産再開時期未定につき欠品中
ドメーヌ ジャン ポール エ ブノワ ドロワンの情報(生産者詳細)はコチラから!
★次回は、ブルゴーニュ・シャブリの生産者、「ドメーヌ ジルベール ピク エ セ フィス」をご紹介します。