【現地視察レポート】1995年の輸入開始からちょうど30年! 愛され続けるシャブリのザ スタンダード "ドメーヌ デュ コロンビエ"(経営企画室 藤野晃治)
先代のギィ モット(1995年撮影)と、5世代目にあたる現当主のティエリ(1997年撮影)。
シャブリのロングセラー
1995年から約30年もの間、多くのお客様に愛飲いただいているシャブリの生産者、「ドメーヌ デュ コロンビエ」を訪問しました。先代のギィ モットの時代から、ギィの息子ティエリ、そしてティエリの子供たちが活躍する現在に至るまで、家族3代にわたる本当に長い付き合いとなっています。日本市場においても「シャブリ(F-010)」は、ザ スタンダードともいうべき銘柄としてご存知の方も多いのではないかと思います。
ブルゴーニュでも北部に位置するシャブリは、度々、霜害や雹害などの天候不順に悩まされています。2016VTや2021VTには、その影響を大きく受けて収穫量が大幅に減少してしまいました。そして2024年、私たちが訪問した生産者たちが口をそろえて言っていたのが、「シャブリが心配だよ」というものでした。私たちがフランスへと出発する直前、5月1日に雹がシャブリを襲ったのです。不安な気持ちを抱えながら、シャブリを生産する村のひとつ、フォントネ プレ シャブリを訪ねました。
ドメーヌの前での一枚。あいにくの曇り空。
5代目で現当主のティエリがお出迎え。
さっそく出迎えてくれたのは、現当主のひとり、ティエリ モットです。「Mr. INABA!」とにこやかに弊社社長と握手を交わします。1964年1月生まれ、現在61歳のティエリは、この道40年以上のベテランです。さっそく2024年の生育状況について、心配しながら尋ねてみました。「今年は雹害でフルショームが100%の被害を受けた。だから2024VTのフルショームは生産できないだろう。また、所有する葡萄畑のうち、15~20haはなんらかの被害を受けている。近年は気候変動の問題が多い。ただ、これは稀な問題というわけではないからね」とどこか達観した様子のティエリ。不思議と悲観した印象はありません。
実はドメーヌ デュ コロンビエは個人生産者であるものの、55haもの自社畑を有しており、年間生産量は約43万本にも上る一大ドメーヌです。この内、フルショームは2.3haしかないため、大局的に見れば大きな影響はないからかもしれません(もちろん、あの素晴らしいフルショームが生産されないのはとても残念です。それに、1万本以上のワインが失われてしまうのはやはり大きな出来事です)。また、シャブリの畑が41haと最も多く、ブレンドして一つのキュヴェを造り上げていることもポイントで、不安定な気候条件にありながら安定的にシャブリが生産できます。
そしてさらに、300haの牧草地で牛を育てており、ワイン生産以外の事業を行なっていることも強みのひとつです。ティエリには兄弟がふたりいて、それぞれにビジネスを行っています。ワインの醸造と販売をティエリが、畑の管理をヴァンサンが、牛の放牧をジャン ルイが担っています。モット家のビジネスは、ワインが80%、牛が20%の割合です。また、牛糞のコンポストを葡萄畑に撒くことで効率的な葡萄栽培を行なっています。このような体制が彼らの強みであり、だからこそコストパフォーマンスの高いワインを生みだせているのです。
「2022VT、2023VTはどちらも良いヴィンテージとなった」
続けて、直近のヴィンテージについて質問しました。「2024VTと同じように、2021VTは霜害による被害を受けたため、収量は少なくなった。集約感はあまりないが、アロマティックだ。典型的な酸の高いシャブリが出来た年で、桃などのピュアなフルーツの素晴らしいアロマがある。一方、2022VTは平均的な収量となった。とても暑いヴィンテージで、2021VT、2023VTよりも酸は少なく、丸みのある味わいとなった。糖度と酸のバランスが非常に良く、熟成ポテンシャルも高い。2023VTはとても良い。質、量ともに良かった。シャブリの典型的な味わいがあり、酸が豊富で、アルコール度数は上がり過ぎなかった。何の問題も起こらなかった美しいヴィンテージだよ。品質は2022VTと同じく良い」。
美しいヴィンテージというコメントに惹かれていると、さっそく2023VTの試飲が始まりました。ドメーヌ デュ コロンビエのスタンダードクラスのシャブリは、様々な区画のキュヴェを巧みにブレンドして造り上げられていますが、ワイナリーで試飲する際はまだブレンド前です。それぞれの区画に異なる個性があるため、完成品を想像するのはとても難しいのですが、同時に勉強になる試飲でもあります。
まずはノーマル シャブリの試飲。ステンレスタンクから直接、ブレンド前の区画別のワインを注いでくれる。
たとえば、「北向きでミネラルが強い」とティエリが話すEtangという区画からのワインは、引き締まった抑制的な味わいで果実味は控えめに感じられます。一方で、「斜面にあり、丸みがあってリッチなスタイル」というCouverteという区画からのワインは、確かに酸がまろやかで果実味が強く感じられました。「シシェ村の畑」であるCAC(略称だと思いますが聞きそびれてしまいました)は、横に広がるような味わいで酸とミネラルの主張は控えめです。そして、「シシェ村の斜面の畑」というVaulardy(タンクの文字からかろうじて読み取ったので、違うかもしれません!)は、みずみずしいほどの果実味に、ミネラル感とピリッとしたスパイシーさがありました。
この道40年以上のベテランの熟練工、ティエリが熱く語る様子。
スタンダード キュヴェを終えて、ヴィエイユ ヴィーニュ、プルミエ クリュ、グラン クリュへと進んでいきます。ティエリのコメントとともに、それぞれのキュヴェについて簡単にご紹介します。
・シャブリ ヴィエイユ ヴィーニュ
AOCシャブリの畑の中でも、南向きで日当たりの良い3つの区画の葡萄を使用して造る上級品。樹齢は約65年で、凝縮した味わいが特徴的です。「通常のシャブリとは異なるスタイル。複雑で、酸は少し穏やかだ。食前酒、または魚料理とともに飲んでほしい」。
・シャブリ プルミエ クリュ ヴォークパン
2022VTは300本のみ特別に分けていただきましたが、今回の試飲はありませんでした。ドメーヌ デュ コロンビエでは1haしか所有していないため、滅多に入荷しない限定品です。「生産量が少ないんだ」とティエリ。貴重なワインですので、見つけた方はラッキーかもしれません!
・シャブリ プルミエ クリュ フルショーム
プルミエ クリュの中でも特に優れているといわれています。2024VTは残念ながら霜害により生産できないとのことでした。区画によって造り分けているため、2つのタンクから試飲しました。ひとつめは、比較的樹齢が若い区画の葡萄で仕込む「しっかりとしたミネラルがある」というキュヴェ。ふたつめは、「私の父が1957年に植えた、樹齢65年を超える区画からのワイン。この区画からはふくよかで品質の高い葡萄が収穫できる」というキュヴェです。どちらも素晴らしいクオリティですが、それぞれに個性がありました。ティエリは「最終的に、この2つをブレンドすることによって良いバランスが生まれると考えている」と話します。
ティエリが手掛けるシャブリの中で、唯一樽を使って仕込むグラン クリュのブーグロ。タンク熟成と樽熟成のキュヴェをそれぞれ試飲する。
・シャブリ グラン クリュ ブーグロ
いよいよグラン クリュの試飲です。タンクサンプルとカスクサンプルの2つを試飲しました。「樽のキュヴェは、アルコール発酵とマロラクティック発酵、そして熟成を樽で行う伝統的な製法だ。ただし、このキュヴェだけだと樽の香りが強すぎるため、タンクのキュヴェをブレンドすることでバランス良く仕上げている。もしも樽だけで造ったら、シャブリではなくてムルソーになってしまうよ」。シャブリを造り続けて40年以上のティエリが語る、重みのある言葉です。
さすがはグラン クリュともいうべき力強さが感じられる味わいで、最終的にブレンドされたワインがリリースされるのが本当に楽しみになりました。とはいえ、実はコロンビエが所有するブーグロの畑は1.2haほどで、ヴォークパンと同じくらいです。年間生産量は5,000~6,000本しかありません。弊社では長年の取引のおかげで、生産量の20%ほどを毎年分けていただいていますが、実はとても貴重なワインでもあります。特に、手ごろな価格でありながらクオリティも高いグラン クリュのシャブリは、世界中から熱望の声がやみません。ぜひ大事に味わっていただきたい逸品です。
※グラン クリュ ブーグロはご好評につき、現在欠品しております。ご迷惑をおかけしますが、なにとぞご理解くださいますよう、お願い申し上げます。
30年の時を経て考える、コロンビエという造り手
2023VTのサンプルを試飲した後は、2022VTのボトル試飲を行う。サンプルだけでなく、完成品も試飲することが重要。
タンクサンプルの試飲の後に、実際に製品化された後のボトルサンプルを試飲しました。ヴィンテージは1つ戻り、2022VTです。2023年の訪問時にはタンクサンプルを試飲したので、その答え合わせのような、わくわくした気持ちで迎えるテイスティングとなりました。まずはスタンダードクラスのシャブリですが、区画別にバラバラに試飲したキュヴェが一つにまとまり、それぞれが補完し合って美しくバランスをとっているように感じられました。深みがあり、複雑な味わいはやはりブレンドするからこそ。その完成度の高さに改めて驚かされました。
続けて、ヴィエイユ ヴィーニュ、フルショーム、そしてブーグロと試飲していくにつれ、スケール感はやはり異なるものの、どのワインからも調和のとれた味わい、複雑な風味が感じられます。シャブリという一言では表現できない違いがありますが、暖かいヴィンテージにも関わらず、シャブリらしい酸とミネラルを基調とした美しい味わいであることには変わりありません。昨年サンプルを試飲した時も素晴らしかったのですが、さらに完成された味わいが楽しめました。有名な言葉に「神は細部に宿る」というものがありますが、コロンビエのシャブリはこの言葉を体現しているかのようです。30年にもわたって愛され続けるワインは、まさしく不朽の名作といえるのではないでしょうか。
実はコロンビエでは、すべてのワインの発酵に野生酵母を使用しています。そのため、区画の個性がそのまま表現されており、本当に多様なキュヴェが造られています。それぞれの個性を巧みに組み合わせてひとつの作品に仕上げるのは、まさに職人技ともいうべき技術です。また、グラン クリュのブーグロを除き、すべてのワインがステンレスタンクで発酵、熟成されており、素材となる葡萄の風味をそのままに反映したワイン造りを行なっています。生産量の多さから誤解を招くこともありますが、このドメーヌは大量生産を売りにしたシャブリではなく、長い年月をかけて腕を磨き続けてきたティエリ モットという熟練工(アルティザン)による"品質本位のシャブリ"の造り手なのです。
株式会社稲葉 経営企画室 藤野 晃治
■ラインナップ
・シャブリ 【白・辛口】
・シャブリ 【白・辛口/375ml】
・シャブリ ヴィエイユ ヴィーニュ 【白・辛口】
・シャブリ プルミエ クリュ ヴォークパン 【白・辛口】
・シャブリ プルミエ クリュ フルショーム 【白・辛口】
・シャブリ グラン クリュ ブーグロ 【白・辛口】 ※欠品中につきご迷惑をおかけしております。
ドメーヌ コロンビエの情報(生産者詳細)はコチラから!
★次回は、ブルゴーニュ・シトリー ル フォールの生産者、「ドメーヌ コルボワ」をご紹介します。