【現地視察レポート】毎年品質を上げるために努力を惜しまず、成長を続けるサントネの生産者「ジュスタン ジラルダン」(経営企画室 藤野晃治)
サントネの次世代の生産者
シャルル ペール エ フィーユへの訪問を終えた翌日。ブルゴーニュワインの首都とも呼ばれるボーヌのホテルから、コート ドール最南端の丘陵地帯に位置するサントネへと向かいます。サントネは弊社にとって縁がある村で、1992年に届いた2本のワインのクオリティに驚愕し、翌年、1993年にサントネにあるヴァンサン ジラルダンを訪ねてから、およそ30年の月日が流れました。
今やヴァンサンは引退し、後任をムルソー出身のエリック ジェルマンに譲っています(ちなみにヴァンサンは現在、La Ferme des Plantesという農場を経営して牛を育てています!)。ヴァンサン ジラルダンはムルソーに移転しましたが、サントネといえばやはりジラルダンの名が浮かびます。さて、皆様は"もうひとつのジラルダン"をご存知でしょうか。今回ご紹介するのは、「サントネの次世代の生産者」として注目を集めるジュスタン ジラルダンです。
1570年に遡るほどの歴史ある家系、ジラルダン家の13世代目にあたるジュスタン ジラルダン。
ジュスタンは、450年以上も遡ることができるジラルダン家の13世代目にあたります。父のジャックは、ヴァンサン ジラルダンのヴァンサンの兄弟です。ジュスタンは1990年6月生まれの34歳。BTS viti-oeno(葡萄栽培・醸造学の上級技術者免状)を取得し、ポムロール、モーリー、タスマニアで研修しました。2013年、23歳の時に家族のドメーヌで働き始め、2017年には父からワイナリーを引き継ぎ、当主となりました。
2013年、ちょうどジュスタンが働き始めた年に訪問。母ヴァレリー、父ジャックと一緒に記念にパシャリ。
弊社が取り扱いを開始したのは2012年12月のことで、当初はジャック名義のラベルでしたが、現在はすべての商品がジュスタン名義のラベルに切り替わっています。『Inside Burgundy(邦題:ブルゴーニュワイン大全)』の著者であり、ブルゴーニュワインのエキスパートとして知られるジャスパー モリスMWは、ジュスタンのシャサーニュ モンラッシェの赤ワインを特に評価しており、「サントネの次世代の生産者」、「才能あるジュスタン ジラルダン」と称賛しています。
静かに燃える炎でも、やっぱり熱い
父ジャックからドメーヌを引き継ぎ、当主として7年の時を過ごしたジュスタン ジラルダン。2023年の訪問時には、「両親の時みたいにゆっくりではなく、常に品質を良くしようとトライしています。毎年少しでも良くしたいので、やらなければならないことがたくさんあります」と語っていました。今年も訪問することになり、どんな点が変わったのだろう? と個人的に気になっていましたが、さっそく教えてくれました。
①湿度を保ち、ワインの目減りを防ぐ
樽熟成用のワインセラーに、日本製の霧が出る装置(加湿器のようなもの)をつけた。これにより、樽の乾燥を防ぐことができ、年間を通して理想的な湿度を保つことができる。また、ワインの目減りする量が減少するおかげで、ウィヤ―ジュ(蒸発したワインを補填する作業)を減らすことが出来る。
②樽のサイズを大きくして、樽香をつけすぎない
ブルゴーニュで一般的な樽はピエスと呼ばれるもので、容量は228L。ボトルワインなら304本分となります。ボルドーのバリックは225Lで、およそ300本分。どちらも小樽と呼ばれますが、細長いバリックに対し、ピエスは少し寸胴です。ジュスタンは、「樽の香りをワインにつけたいわけではないので、小樽ではなく、400Lの樽を増やしました」と話していました。
③収穫を早めて酸をキープする
ブルゴーニュだけでなく、多くの産地で悩みの種になっているのが気候変動です。「将来的に、もっと酸が落ちてしまうのではないかという懸念があります。そのため、収穫の時期を早めています」とジュスタン。ただし、単に収穫を早めるだけでは風味成分が十分に成熟しないため、事前の畑での仕事も重要視されています。試飲したワインのクオリティは申し分なく、健全な素晴らしい葡萄を使用していることが良く分かりました。
ちなみに、2023年訪問時には次のことを語っていました。
①温度管理可能なステンレスタンクを導入
ウォータージャケット付きのタンクで、水を循環させることでワインの温度管理がより正確にできるようになりました。
②シャルドネ用の新たなプレス機を導入
低圧でゆっくりと搾汁するためのプレス機を新たに導入しました。入れられる葡萄の量は少なくなりますが、より品質の高いジュースを得ることができます。
少しずつでも、また些細と思われるようなちょっとしたことでも、常に新しいことに挑戦するジュスタンの姿勢に感心させられるとともに、私的なことですが、「毎日なんとなく過ごしていてはもったいないかもな……」と、自分自身を振り返るきっかけにもなりました。終始穏やかで随所に気遣いが見える穏やかそうなジュスタンですが、その内に秘める想いの熱さはまるで炎のようです。まだ見ぬ2024VTも、2025VTも、きっとジュスタンなら素晴らしいワインを造ってくれるだろうと、とても頼もしく思える訪問となりました。
「2022VTは、問題を探す方が難しいほどの良いヴィンテージです」
瓶詰めされた2022VTを中心に、2021VTや、まだ樽熟成中の2023VTのサンプルを試飲しました。「自分のワインなので常にテイスティングはしていますが、ほとんどの種類を並べて一度にテイスティングする機会は多くありません。実は私にとっても非常に興味深い試飲なんです」と笑顔を見せるジュスタン。「2022VTは、問題を探す方が難しいほどの良いヴィンテージです。バランスが良く、誰にでも分かりやすい味わいがあります」。
さっそく試飲してみると、2022VTはどのワインも酸、果実味、タンニンのバランスが取れていて、すでに完成された味わいが感じられました。パワフルではなく、落ち着いていて洗練されている印象で、テロワールの違いを表現しようというジュスタンの哲学がしっかりと現れています。弊社が現在扱っているワインも、ほとんどが2022VTです。「問題を探す方が難しい」という言葉通り、安心しておすすめできるラインナップになっています。ところで、2023年訪問時、そして今年の訪問時と、ジュスタンは2021VTについても熱く語ってくれました。
淡く美しい色合いの2021VTの赤ワイン。父の時代は色が濃いワインが良いとされていたが、ジュスタンはそうは思っていない。
「冷涼な難しい年なので説明する分には難しいのですが、個人的には大好きなヴィンテージです。2022VT よりも淡い色合いで、2つのヴィンテージが全然違うことが分かると思います。父が仕事を始めた時代、ネゴシアンは色が濃いワインに高い値段をつけて買っていたため、2021VT のワインを父に見せた時、ワインの薄い色合いにがっかりしていました。でも私は、色を濃くするために抽出を強くして、グリーンなタンニンを出したくはありません。色が薄くても悪いことではなく、ヴィンテージの特徴だと思っています」
さて、続いて2023VTの樽試飲です。「夏が暑く、ワインの色も濃くなりました」とジュスタン。まだまだ未完成の状態なので判断が難しい試飲になりますが、ヴィンテージの特徴が良く現れており、赤ワインには熟した果実の味わいや、タンニンの力強さがしっかりと感じられました。さて、白ワインはどうでしょうか。
「白ワインの樽試飲は本当に難しいと思います。この2つの樽の中身は同じワイン(サントネ ブラン レ テラス ド ビエヴォー)で、どちらも同じ樽メーカーで、同じ年数のもので、樽詰めも同じ日なのですが、全く違う味わいになっています。熟成のさまざまな段階で試飲する度に、酸化していたり還元していたりします。本当に不思議ですが、白ワインは樽熟成ですごく変わります。赤ワインの場合はそんなに変わりません。これは、私たちが理解できない不思議なところだと思っています。まさに、"ワインの魔法"ですね」。
実際に2つの樽から試飲してみると、最初の樽のワインは甘酸っぱい柑橘系の香りに、爽やかなマスカットのようなニュアンスが感じられました。次の樽のワインは樽由来の香ばしい風味がやや強く、フレッシュな酸がメリハリの効いた印象を与えています。同じ「サントネ ブラン レ テラス ド ビエヴォー」でも、こんなに違うのかと驚くほどです。ヴィンテージの状況だけではなく、こうした樽熟成中にも人の手が及ばない神秘的な領域があることが分かり、非常に感慨深い気持ちになりました。このワインがボトリングされた時に、どのような表情を見せてくれるのか、今からとても楽しみです。
造り手の人柄がワインに現れる
さて、フランス現地視察レポートと題した本記事も、今回で第十一弾となりました。年内の更新はジュスタン ジラルダンが最後です。毎回記事を書くたびに思うことがあります。それは、「造り手の人柄がワインに現れる」ということです。ワイン造り、そして葡萄栽培で重要視されるのは「ヴィンテージ」と「テロワール」。「気象条件」と「地域特性」に言い換えても良いでしょう。そこにもう一つ重要な要素として加えられるのが「人」、つまり「造り手」です。もちろん、ワイン造りには人の手でコントロールできない部分があることは間違いありません。
ジュスタンの人柄の良さが滲み出る一枚。
それでも、同じ畑の葡萄から造られたワインが、造り手によってその味わいを変えるように、最後にはやはり、「人」が重要になってきます。葡萄栽培、ワイン醸造だけでなく、容器の種類やサイズ、発酵温度、瓶詰のタイミングなど、様々な場面で選択すべき事柄がたくさんあるからです。こうしてみると、造り手の人柄がワインに現れることが多々あるのも、不思議ではないかもしれません。たとえばシャトー デ ゼサールは、豪快なパスカルの時代にはワインの味わいもパワフルでしたが、フラヴィが参加してからはタンニンも滑らかになり、エレガントさも備えるようになりました。いつも陽気で楽しげなビュルル家は、ワインも明るく果実味たっぷりですが、クレールが参加したフォン サラドの方が、よりフレッシュでピュアな果実味が楽しめます。
ジュスタンはどこか控えめで物腰やわらか、真面目で実直な人柄です。出来上がるワインもまた前に出過ぎることがなく、素材の良さや個性が発揮されるように、ひとつひとつが丁寧に造られています。また、2021VTへの並々ならぬ愛情は、彼がまだ若いながらも、職人的なこだわりを持ったヴィニュロンであることを教えてくれるようです。皆様がお飲みになっているボトルを見ながら、「どんな人が造ったのだろう」とふと思っていただくと、ヴィンテージやテロワールだけではない、造り手の人柄が感じられるのではないかと思います。これもまた、ワインの面白さなのではないでしょうか。
株式会社稲葉 経営企画室 藤野 晃治
★次回は、ブルゴーニュ・コート ド ボーヌ・ムルソーの生産者、「ヴァンサン ジラルダン」をご紹介します。
ジュスタン ジラルダンのワイン一覧
・ブルゴーニュ シャルドネ 【FD-143/白・辛口】
・ブルゴーニュ シャルドネ サンマルタン 【FD-144/白・辛口】
・サントネ ブラン レ テラス ド ビエヴォー 2021 【FC-749/白・辛口】
・サントネ ブラン レ テラス ド ビエヴォー 2022 【FD-145/白・辛口】
・ムルソー ブラン 【FD-146/白・辛口】
・ムルソー ブラン レ クルー 【FD-147/白・辛口】
・ブルゴーニュ ピノ ノワール 【FD-148/赤・フルボディ】
・ヴォルネイ 【FD-152/赤・フルボディ】
・サヴィニ レ ボーヌ ルージュ レ ゴラルド 【FD-151/赤・フルボディ】
・サントネ ルージュ ヴィエイユ ヴィーニュ 【FD-150/赤・フルボディ】
・マランジュ ルージュ ヴィエイユ ヴィーニュ 【FD-149/赤・フルボディ】
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