有名シャトーには目もくれず……

シャトー　デ　ゼサールのワイナリーを出て、次の目的地であるボルドーに向かいます。ボルドーといえば、ブルゴーニュと双璧を為すフランス二大産地のひとつ。中でも、世界遺産に認定された「サンテミリオン」の中世の面影を残す街並みは、観光名所としても知られています。今回訪ねたのは、サンテミリオンの衛星地区のひとつ、「モンターニュ　サンテミリオン」にワイナリーを構える生産者、「シャトー　ロシェ　コルバン」です。

サンテミリオンといえば街並みだけでなく、シュヴァル　ブランやオーゾンヌなど、錚々たる高級ワインで名を馳せています。この2軒のワインは、1本10万円を超えることもしばしば。他にも、パヴィやアンジェリュス、フィジャック、ヴァランドローなど、素晴らしいワインを産出しており、フランスを代表する銘醸地であることに疑いの余地はありません。一方で、サンテミリオン衛星地区と呼ばれる周辺エリアは、サンテミリオンほどの知名度はないものの、良質なワインが発見できる産地として知られており、時には掘り出し物を見つけることもできます。シャトー　ロシェ　コルバンはまさにそんな生産者です。

さて、ボルドーに行くからには、きっと他にも有名シャトーを巡ったに違いない……と思われることでしょう。ところが実際には、高級ワインを生む名だたるシャトーには目もくれず、ひたすらに目的地へと向かいました。生産者にも驚かれたのですが、実はこれにも理由があるのです。弊社は、知名度や人気、評価や点数ではなく、むしろ「知られざる生産者の美味しいワインを探したい」、「高品質なワインを少しでも安く、皆様の元へ届けたい」と考えています。

実は、五大シャトーをはじめ、高級なボルドーワインを輸入していたこともありました。ところがある時、その仕事に疑問を持つようになったのです。私たちが感銘を受けた生産者の言葉に「皆がやらないほんの少しの努力が、ワインの品質を大きく変える」というものがあります。それなのに、もしも私たちの仕事が評論家の点数任せだったり、有名な高級ワインをただそのまま輸入するだけだとしたら……。「良質なワインを自らの手で探し出す！」。それが私たちの仕事であり、インポーターとして努力を続けなければならない、そう考えるようになりました。だからこそ弊社は、「ワインへの情熱は誰にも負けない」という社訓を掲げているのです。

 とにかく良い葡萄しか使わない

（フィリップ　デュランとジュリエット）

さて、ワイナリーに到着すると、デュラン家の皆さんが出迎えてくれました。シャトー　ロシェ　コルバンは、フィリップ　デュラン（写真左）が中心となってワイン造りを営む家族経営の生産者です。娘のジュリエット（写真右）も畑作業やワインの販売を主に担当しています。畑はすべてモンターニュ　サンテミリオンにあり、合計で約10haを所有しています。栽培している葡萄はメルロが85％、カベルネ　フランが15％ほどで、ほんのわずかにマルベックも育てています。平均樹齢は45年で、その内15％は70年、そして1％がなんと140年（！）というから驚きです。2011年から有機栽培を行なっており、2020年に認証を取得しています。

「2023年10月からずっと雨が降り続けています。有機栽培を行なっているため、認可されたボルドー液を使うことでベト病を防いでいますが、ボルドー液は葉の表面を覆うだけなので雨が降ると流されてしまいます。そのため、何度も撒かなければなりません」とジュリエット。ロシェ　コルバンでは、だいたい15mm程度の雨が降ったらボルドー液を1度撒く、という方法を取っているそうで、畑には専用の観測機が設置されていました。

ロシェ　コルバンでは、とにかく葡萄の品質にこだわっており、こうした病害対策だけではなく、徹底的な葡萄の選別を行なっています。まず、畑で選別しながら収穫し、ワイナリーに運んだ後に房選り、粒選りと、合計で3度に及ぶ選別をクリアした完璧な葡萄のみが使用されます。これはファーストラベルだけではなく、セカンドラベルでも同様です。ここでの選別が、後のアルコール発酵の際に重要になってきます。

（畑で選別しながら手作業で収穫し、房選り、粒選りを行なって、完璧な葡萄だけを選び抜く）

 「私たちは、いわゆるナチュラルワインを造りたいわけではありません」

シャトー　ロシェ　コルバンでは、2016VTから醸造段階でのSO2無添加でのワイン造りを行っており、2017VTからは全ての段階においてSO2無添加での醸造を行なっています。SO2無添加での醸造は、雑菌の繁殖や酸化を防ぐ手立てを放棄するということでもあるため、葡萄の健康状態が非常に重要となってきます。3度にわたる徹底的な選別が、クリーンな発酵を行なえる理由のひとつと言えるでしょう。また、発酵にはコンクリートタンクを使用していますが、温度管理及び発酵管理が重要となるため、冷却水で温度管理できるシステムを採用しています。

（健全な発酵状態を管理し、黒板に記録している）

「私たちは、いわゆるナチュラルワインを造りたいわけではありません。適切に管理し、クラシカルでクリーンなボルドーワインを造りたいと考えているのです」とジュリエットは話します。有機栽培、SO2無添加と聞くと、いわゆる「自然派ワイン」を思い出す方も多いのではないでしょうか。しかし、シャトー　ロシェ　コルバンは、そう呼ばれたくないと言います。SO2無添加でワインを造るには、健全な葡萄が必要です。ところが、そうしたワインの中には、葡萄の品質は重視しておらず、SO2を添加していないだけというものもあります。「クリーンなボルドーワインを造りたい」。この言葉に、彼らの哲学がしっかりと感じられました。

続いて、いよいよワインのテイスティングです。今回の訪問では、良年とされる2023VTや2022VTの他に、難しかったとされる2021VTも試飲することができました。暖かい天候に恵まれ、凝縮した葡萄が収穫できた2023VT、2022VTはもちろん素晴らしく、濃密で果実味がたっぷりと詰まった本当に美味しいワインでした。その一方で、雨が多く冷涼だったという2021VTでも十分な凝縮感があり、綺麗な酸があることでエレガントさが出ているものの、十分に力強さも楽しめるようなワインに仕上げられていました。

（樽熟成中の2023VTを試飲する様子）

弊社が取り扱っているラインナップにはまだこれらの新しいヴィンテージはありませんが、きっとどのヴィンテージであってもご満足いただけるのではないかと思います。良い葡萄だけを厳選し、その年に出来得る最良のワインを造り上げる手腕には、フィリップとジュリエットの確かな実力が現れています。実際に、ファーストラベルの「シャトー　ロシェ　コルバン」の2019VT、2020VTは、アメリカの著名なワインガイド『ワイン　エンスージアスト』でともに91点を獲得しています。まだまだ知名度はないかもしれませんが、彼らのワインを一口飲んでいただければ、私たちがボルドーに行ってシャトー　ロシェ　コルバンだけを訪問した理由が、きっとお分かりいただけるものと思います。

株式会社稲葉　経営企画室　藤野　晃治

★次回は、コート　デュ　ローヌの生産者「ドメーヌ　フォン　サラド」、「ドメーヌ　ビュルル」の2軒をご紹介します。

■シャトー　ロシェ　コルバンのワイン一覧

・レ　プロメス　ド　ロシェ　コルバン　2014VT　【FC-534／赤・フルボディ】

・レ　プロメス　ド　ロシェ　コルバン　2017VT　【FC-974／赤・フルボディ】

・レ　プロメス　ド　ロシェ　コルバン　2019VT　【FC-756／赤・フルボディ】

・シャトー　ロシェ　コルバン　2017VT　【FC-755／赤・フルボディ】

・シャトー　ロシェ　コルバン　2019VT　【FC-975／赤・フルボディ】

・シャトー　ロシェ　コルバン　2020VT　【FC-976／赤・フルボディ】

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