【現地視察レポート】パシュラン デュ ヴィック ビル セックの最上級キュヴェは、ブラインドなら高級ブルゴーニュ!? しなやかなマディランの若き造り手は、白ワインも凄い! "ドメーヌ ラウゲ"(経営企画室 藤野晃治)
どうか無事に着きますように!
ガイヤックの「ダーム ド サッラシ(Dames de Sarrasi)」のワイナリーを出発し、同じ南西地方の次の目的地である「ドメーヌ ラウゲ(Domaine Laougue)」に向かいました。スエル村からマディランまでは約240km、およそ3時間の道のりです。フランスの一般道は制限時速が80kmに定められていますが、中には対向車とすれ違うことができないほどの細い田舎道もあり、無事にたどり着けるのだろうかと、祈るような気持ちで過ごすドライブとなりました。長い旅を終え、ドメーヌ ラウゲのワイナリーに辿りつき、ホッと胸をなでおろしていると、さっそく当主のシルヴァンが出迎えてくれました。
シルヴァンは1991年10月生まれの32歳。ドメーヌ ラウゲは、シルヴァンの父ピエールが1980年に立ち上げた、まだ若いワイナリーです。シルヴァンは2013年、22歳にして2代目としてワイナリーを引継ぎました。シルヴァンはただ引き継いだのではなく、父の時代とは違ったワイン造りをしようと決意し、それを実行に移します。
父の時代には2種類のワインしか生産していなかったのですが、シルヴァンは「この地域には独自のテロワールと個性的な葡萄品種がある。それらを組み合わせることで、テロワールの個性を引き出したワインを造れないだろうか」と考え、多彩なラインナップを手掛けるようになります。また、がっしりとしたタンニンが特徴的で、飲みごろになるまで時間がかかる「マディラン」というワインのイメージを変えるべく奮闘し、ついに自分のスタイルを完成させました。
「多くのマディランの赤ワインは、タンニンがかなり強く、飲み頃を待つ必要が多い中、ドメーヌ ラウゲの赤ワインは若いヴィンテージながら、すでにタンニンがスムーズで滑らかで、早くから美味しく飲めます。それでいて集約感もあり、長くキープできるでしょう。多くのお客様におすすめできるワインです」とは、弊社社長の稲葉のコメントです。
余談ですが、シルヴァンが新たに造り出した単一畑からの「マディラン カミー」は、Forbes誌で「世界で最も健康的なワインが英国で発売された」(The World's Healthiest Wine Now Available In The UK)として取り上げられたこともあります。シルヴァンが手掛けるマディランは、フランス現地でも評判を呼んでおり、『La Revue de Vin de France No.682/2024年7-8月号』にも写真入りで掲載され、「この好奇心旺盛で独創的な造り手のワインは、その強い主張、個性、時には予想外の味わいで抜きん出ている」と紹介されています。
パシュラン デュ ヴィック ビルとは?
ところで、パシュラン デュ ヴィック ビルというワインについてご存知でしょうか。このエリアの白ワインのAOCですが、あまり広く知られてはいません。伝統的には、パスリヤージュ(樹上で葡萄をそのまま乾燥させる手法)によって造られる甘口ワインを指していますが、ここに辛口という意味の「Sec(セック)」がついているものは、辛口の白ワインとなります。南西地方でよく栽培されているプティ マンサンやグロ マンサン、それからプティ クルビュという葡萄を主に使用して造られるワインで、この土地ならではの個性を持ったワインです。
ドメーヌ ラウゲはマディランだけではなく、このパシュラン デュ ヴィック ビルの辛口と甘口の白ワインを手掛けています。ドメーヌ ラウゲの畑面積は現在30haですが、その内黒葡萄が18ha、白葡萄が12haとなっており、マディランの生産者としては白葡萄の比率が高いのが特徴です。さらには、パシュラン デュ ヴィック ビルでも5%程度しか栽培されていないという、プティ クルビュの栽培比率が高いこともアイデンティティとなっています。
葡萄畑で試飲するワインは一層美味しく感じられますが、そこはプロフェッショナルとして、しっかりとワインの品質を見極めなければなりません(この仕事をする上で、最も難しいことかもしれません!)。畑からは、この地域の典型的な景色を眺めることができ、晴れた日にはピレネー山脈も確認できるといいます。また、西に車で1時間ほど行くと大西洋があるそうです。「大西洋からの涼しさと湿度のある風、ピレネー山脈からの冷たい空気がもたらされ、葡萄の酸を保つことができます」とシルヴァンは話します。2015 年から有機栽培に転換しており、2023VT からは30haすべてが有機認証を得る予定です。
特に私たちを驚かせたのは、辛口白ワインの最上級キュヴェ「パシュラン デュ ヴィック ビル セック タリオン」(FD-330/入荷いたしました!)でした。ブラインドで飲んだら、ブルゴーニュの高級な白ワインと間違えるのではと思わされるほどの見事な味わいで、冷涼な酸とミネラル、樽の風味とのバランスが素晴らしく感じられました。シルヴァンも、「10年以上は熟成できますよ!」と誇らしげです。知名度は低くても、感動的なワインに出会えるのだと実感できる見事な1本でした。
野生酵母を使用し、SO2の添加を抑えるのがシルヴァン流
葡萄畑の見学を終え、ワイナリーに戻ります。上の写真は、セラーが建てられた1904年から使用しているというコンクリートタンクです。今でも一部のワインの醸造に使用しています。また、マディランの上級品であるマーティとカミーは樽熟成が終わった後に、一時的にこのコンクリートタンクに移し替えて数ヶ月寝かせ、完璧な状態になってからボトリングしているそうです。
続いて見学したのはステンレスタンクのセラーです。こちらのタンクは熟成には使用せず、すべて発酵用に使用しています。また、ドメーヌ ラウゲでは、すべてのワインを野生酵母によって発酵させており、SO2の添加もできる限り抑えるなど、人為的な介入を減らしたワイン造りを行なっています。
「地下セラーは気温と湿度が一定に保たれています。ほとんどのワインはここで1年間の樽熟成を行いますが、SO2はほとんど添加していません。SO2を添加せずに熟成させることのメリットとして、タンニンがスムーズに感じられるという点が挙げられます。タナは力強くタンニンも強い品種ですが、適切に抽出し、SO2を添加せずに造ることで、スムーズな口当たりのワインを造ることができます。ここにある樽は400Lの大きさですが、ガスコーニュ地方(フランス南西部を包括するエリア)の"Tonnellerie de l’Adour(トネレリエ ド ラドゥー)"社が制作した樽を使用しています。地元の葡萄と、地元の樽の組み合わせです」とシルヴァン。
実は、マディランではミクロ オキシジェナシオンという手法(ワインに酸素を吹き込み、タンニンを重合させる)を用いて、口当たりを良くすることがあります。そのため、しなやかなタンニンを持つマディラン自体は、そう珍しいものではありません。しかし、シルヴァンはあえてそうした選択肢を排除し、自分なりの方法で挑戦を繰り返し、集約感がありながらもしなやかなスタイルを造り上げました。まだ若い生産者ですが、明確な方向性を持ったワイン造りが印象的で、本当に将来が楽しみです。
社長の稲葉も太鼓判を押す、次世代の生産者「ドメーヌ ラウゲ」のワインをぜひ!
32歳と若い生産者ながら、父の時代とは異なるワインを造り上げ、自分流のスタイルを確立したシルヴァン。私たちが訪問を非常に楽しみにしていた生産者のひとつです。ドメーヌ ラウゲのワインを取り扱い始めたのは、2021年の8月頃。輸入を決める試飲の際には、マディランのしなやかな味わいに驚きました。今回の訪問では、マディランはもちろんそうですが、パシュラン デュ ヴィック ビルの品質の高さを改めて思い知らされました。
マディランとパシュラン デュ ヴィック ビル(今回は辛口のみのご紹介でしたが、甘口もとっても美味しいですよ!)、この土地ならではのワインを新しい方法で造り出し、高い評価を得るドメーヌ ラウゲ。これから先、たとえ「悪い」と言われるようなヴィンテージであっても、シルヴァンならばきっと素晴らしいワインを造り出すはず……! ワイナリーを訪問する道中の不安な気持ちを忘れて、心からそう思えるような訪問となりました。
株式会社稲葉 経営企画室 藤野 晃治
★次回は、フランス南西地方、ベルジュラックの生産者「シャトー デ ゼサール」をご紹介します。
■ドメーヌ ラウゲのワイン一覧
・パシュラン デュ ヴィック ビル セック "19.91" 【FC-461/白・辛口】
・パシュラン デュ ヴィック ビル セック ロレ 2021VT 【FC-462/白・辛口】
・パシュラン デュ ヴィック ビル セック ロレ 2022VT 【FD-104/白・辛口】
・パシュラン デュ ヴィック ビル セック タリオン 【FD-330/白・辛口】
・ヴァン ド フランス タナ 【FC-463/赤・フルボディ】
・マディラン "19.10" 【FC-464/赤・フルボディ】
・マディラン カミー 【FC-465/赤・フルボディ】
・マディラン マーティ 【FC-466/赤・フルボディ】
・マディラン アルビゾン 【FC-505/赤・フルボディ】
・パシュラン デュ ヴィック ビル ドゥー "19.58" 【FC-492/白・甘口】
・パシュラン デュ ヴィック ビル ドゥー レ ペリクレ 【FD-329/白・甘口】
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