ロベルト サロット 来日セミナー②

ロベルト サロット 来日セミナー②

 

テロワール
こちらは私たちのワイナリーがあるロンコヌオーヴォ渓谷の写真です。様々な地形や傾斜があることがお分かりいただけると思います。緑色のところは全て葡萄畑ですが、森のようになっているところにはヘーゼルナッツが植えられています。この地域は太古の時代には海底でした。写真の白いところは石灰質土壌で、葡萄栽培に適しています。この土壌には貝殻の化石などが見て取れます。それぞれの丘は隆起して生まれ、こうした様々なところに葡萄畑があります。標高は250~500mと様々で、無数のクリュに分かれており、これが植えられる葡萄の多様性にもつながっています。このエリアは水に恵まれており、灌漑が必要ありません。冬の雨を土壌中に保つことができ、夏にはその水分を利用して葡萄が成長することができます。この地域の特殊性は、土壌だけではなく、その位置にも現れます。たとえばアルプス山脈が北、北西からの冷たい風を防いでくれるため、葡萄畑が冷えすぎる心配がありません。こうした特徴が合わさり、この地域を特別な場所にしてくれています。

 

 

ロベルト サロット 来日セミナー②

 

哲学
私は、この地で代々葡萄栽培を行ってきた家族の一員です。葡萄畑で生まれ、そして育ちました。葡萄畑は私たち家族にとって、自分が生活する場所です。自分たちにとって健康的であるためにも、葡萄畑や周囲の環境を守らなければならないと考えています。具体的には、病害に対しできる限り化学的なものは使用しないことや、すべての土地を畑にするのではなく、動物たちの棲み処をそのまま残すなど、周りの環境も健全でなければなりません。こうすることで健全な葡萄が育つだけでなく、それにより80年を超えるような樹齢になる葡萄もあり、こうした葡萄は高品質なワインを生み出します。葡萄畑は家族代々受け継がれてきたものです。つまり、100年先にも存在するものでなければなりません。後世にも続くものを守るということが私の使命です。

ワインは、常にバランスが良く、好ましいものでなければなりません。もちろん、収穫年によって違いはあり、全く同じワインにすることは不可能です。しかし、どの年でもバランスが常に見て取れることが必要です。これは生産者が芸術家であるということとつながります。そしてこれは、必ずしも容易なことではなく、むしろ難しいことです。常に先のことを見据えて考え、恐れずに立ち向かい、前進していく。そうして新しいものを生み出すことが大切なのです。そのためには、まず原材料である葡萄のことをよく知っておかなければなりません。醸造についても様々な作業をして、ワインを成長させなければなりません。ワインは生きていて、成長を続けます。常にテイスティングを行い、分析して適切な処置を施す必要があります。

 

 

ロベルト サロット 来日セミナー②

 

アパッシメント
きっかけになったのは、私の祖父とのやり取りでした。私がロベルト サロットのワイナリーとして初めて造ったワインを、祖父にテイスティングしてもらいました。その時、祖父は「このワインはタンニンが強くて、酸っぱくて、かたくて飲みづらい」と言ったのです。私は「このワインが飲み頃になるには少し時間が必要なんだよ」と返しましたが、祖父は「自分はもう歳だし、長くは生きられないから待っていられないよ」と答えたのです。この体験によって、ワインは常に好ましいものでなければならないと考えるようになりました。ネッビオーロは気まぐれで、タンニンと酸が強く、扱いが難しい葡萄です。私はネッビオーロの最高の畑を持っていました。しかし、この性質を何とかしなければならないと考えました。

それから30年かけて辿り着いたのがアパッシメントです。この手法は、他の地域では行われていることですが、ランゲで行ったのは私たちが初めてでした。またこれを行う理由は凝縮感を出すためではなく、タンニンを柔らかくするためです。ネッビオーロの持つ強い酸が穏やかになり、甘みが増し、タンニンには熟成させたようなニュアンスが感じられるようになります。葡萄を乾燥させることが目的ではないため、アパッシメントの期間は1~1.5ヶ月程度です。そのため私は「軽いアパッシメント」と表現しています。このあと、皆様にはアパッシメントを行ったワインをテイスティングしていただきますが、まずそのバランスの良さ、そしてタンニンの柔らかさを真っ先に感じていただけるのではないかと思います。

 

 

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「ワインこそわが人生」
私にとってワインとは、最高で最大の喜びや調和、満足をもたらすための探求を続けることです。その結果に決して満足することはありません。私はピエモンテ人です。私の故郷であるこの土地や、歴史はこの土地に根付いたものであり、他のどこにも無いものです。そのため、この土地で生まれ育つ葡萄を何よりも大切にします。ワインは畑で生まれます。しかし、同時に人の力も重要です。私たちには素晴らしい葡萄畑があり、ワイナリーで働くスタッフにも恵まれています。そうして初めて葡萄畑のポテンシャルを引き出すことができます。ワイン造りには、ワイナリーだけでなく、様々な経験が必要です。色々な人の意見を聞くことも重要です。

この地域ではまだ誰もやったことがないアパッシメントという手法を行うのは、とても勇気のいることでした。なぜなら、伝統に対して立ち向かう必要があるからです。しかし、誰かが行った革新的な手法が、やがて伝統として継承されていくことがあります。例えば100年ほど前には、バローロ、バルバレスコは甘口の赤ワインでした。ある時、優秀な一人の醸造家がそれまでの伝統に対し立ち向かい、辛口のスタイルを築き上げました。それが今や、この地域の伝統になっています。

私は「伝統とは、成功した実験を積み重ねてきた結果のこと」だと考えています。私はモダンな醸造家と言われています。伝統や主流のやり方に縛られず、新しいことを常に探求しています。私がつくるワインは、私の人生そのものです。

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